Tag バロック ヴァイオリン

マルタで感じたこと。

フーガの聞き方ヒントの学び。 11月末、ガブリエリ・コンソートのお仕事でマルタに行ってきました。指揮はポール・マクリッシュ。 演奏したのはヘンデルの《メサイア》。 会場は、ルーベンスの絵画があることで有名な、とても豪華な教会です。 マルタは、地中海に浮かぶ小さな島。光の強さ、植物、石灰を使った白い建物……いかにも地中海、という雰囲気なのですが、不思議なことに、 と、生活感はかなりイギリス。かつてイギリス領だった歴史を、日常のあちこちに感じる、不思議な場所でした。 リハーサル中、印象に残った話があります。ヘンデルの合唱曲、フーガになっている楽章を練習していたときのことです。 マクリッシュが、 「フーガでは、声部によって“拍感”が違うものを重ねることがある」 と話していました。 この楽章では、主題を提示する声部と、それに続く応答フレーズのグループとで、拍の感じ方・運動感がはっきり違っている。 その瞬間、「そういえば、バッハのフーガもまさにそうだな」と思ったんです。 バッハでは、テーマを縮めたり、引き伸ばしたりしながら、違う“質感”として重ねていくことがよくありますよね。 これを「理論」として理解する前に、そういう感覚がある、ということを耳と身体に留めておく。それだけで、フーガの聴こえ方も、弾き方も、本当に変わってきます。 今回の《3日でわかるバロック音楽》の講座でも、私は専門的な知識を前面に出すことは、あまり意識していませんでした。 それよりも大切にしたかったのは、実際に音楽をどう感じ、どう演奏につなげるか。 だからこそ、マグダレーナ・バッハの練習帳から《ミュゼット》を取り上げ、具体的に「どう語るか」「どこが“事件”なのか」を一緒に見ていきました。 私自身にとっても、とても学びの多い時間でしたし、受講生の皆さんにも喜んでいただけたのでは、と感じています。 もし、 と感じている方がいらしたら、 先日開催した《弾きたくなる!教えたくなる!3日でわかるバロック音楽》の講座アーカイブをご覧いただけます。 この講座では、 などを、専門知識を振りかざすのではなく、実際に音楽をするための視点としてお話ししています。 現在、期間限定で見逃し配信をご案内しています。 📅 販売期間:12月15日まで📅 アーカイブ視聴:12月17日まで ▶ 詳細・お申し込みはこちら クリスマスの時期は、キャロルやバロック作品に触れる機会も多いと思います。 年末に一度、バロック音楽の「聴き方・感じ方・弾き方」を整理する時間として、ご活用いただけたら嬉しいです。

🎶バッハ《ロ短調ミサ》とイギリス流コンサート事情

先週末まで、Armonico Consortというアンサンブルの公演でバッハの《ロ短調ミサ》を演奏していました。9月末と10月初めにかけて、全3公演。壮大なこの作品を何度弾いても、そのたびに新しい発見があります。 さて、イギリスのコンサート現場には、いつもながらの“お国柄”が出ます。今回も例に漏れず、リハーサルは本番当日のゲネプロのみ!(いわゆる、当日リハ+本番一発勝負スタイルです😅)ただし3公演あったので、2回目からは少し落ち着いた雰囲気に。でも3回目には出演できない人もいて、メンバーが一部入れ替わるというのも、いかにもイギリスらしい柔軟(?)な展開でした。 ✨ ラテン語の壁、毎回思うこと ロ短調ミサを演奏するたびに、必ず思うことがあります。それは——「ラテン語、ちゃんと勉強しておけばよかった!」 ということ。 日本では、カトリック系の学校でもない限り、ラテン語を学ぶ機会はほとんどありませんよね。でもイギリスでは、いわゆる進学校(Grammar Schoolなど)では普通にラテン語を学ぶらしいんです。この文化の違い、なかなか面白いです。 そういえば昔、初めてオーケストラのオーディションに応募したとき、書類に「C.V.を提出のこと」と書かれていて、英和辞典を引いても意味がわからず…人に聞いてようやく、「Curriculum Vitae(ラテン語)=履歴書」の略だと知りました。 「なんなんだこれは!」と思ったのを今でも覚えています😂どうやらヨーロッパではこれが“普通の言い方”なんですね。とはいえ、個人的にはもう少し分かりやすい言葉を使ってほしいところです…! 💫 「Dona nobis pacem」— 我らに平和を そしてこの作品の最後を締めくくる「Dona nobis pacem(我らに平和を与えたまえ)」の部分。このフレーズを演奏するたびに、いつも胸が熱くなります。 バロック時代は、戦争や宗教対立が今よりもずっと身近にあった時代。その中で人々がこの言葉を歌ったとき、どれほど切実に平和を願っていたことでしょう。 そして現代でも、戦争が絶えず起こり続けている今、この祈りの言葉が持つ意味は、ますます深く心に響きます。音楽を通して、「平和を願う声」は時代を超えて伝わってくるのだと感じました。 🎻 おわりに バッハの《ロ短調ミサ》は、宗教音楽の枠を超えて、人間そのものの祈りや希望を描いた作品だと思います。今回の演奏でも、そんなバッハのメッセージを改めて感じる時間になりました。そして、音楽が今もこうして「平和への祈り」を届けていることに、静かな感動を覚えます。

🎭野外オペラシーズン終了!

☀️今夏のオペラシーズンが、無事に終了しました! イギリスの夏といえば、音楽好きにはたまらない「野外オペラシーズン」。 …といっても、「野外」で演奏するわけではないんです。笑 ちゃんと屋根のあるオペラハウスでの上演します。 ただ、開演前や長めの休憩(90分くらい!)の時間に、 観客の皆様が、緑あふれる敷地でテーブルを囲み、ピクニックを楽しみます。 しかも、ドレスコードあり! 燕尾服の紳士やドレス姿の淑女が芝生の上で優雅に食事をする光景は、映画のワンシーンのようです✨ 「音楽」「自然」「社交」が一体となった、イギリスならではの文化イベントと言えます。 写真は会場のオペラハウス。リハーサル期間でしたので、正装の紳士淑女はいらっしゃいません。 🕊️ 今年はベートーヴェン『フィデリオ』! そんな素敵な舞台に、今年も《ザ・イングリッシュ・コンサート》からお声がけいただき、 6月から7月にかけて、ベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』を、古楽器で演奏させていただきました。 昨年はラモーの『プラテー』を演奏していたので、今年はまったく違うジャンル。 改めて、「ピリオド奏者」としての幅広さを実感しています。 🧐「ピリオド奏者」って? 私は自分のことを「バロック・ヴァイオリニスト」と紹介することが多いのですが、 古楽の世界では「ピリオド奏者」という言葉がよく使われます。 この“ピリオド”とは、「歴史的なある時代」という意味。 つまり、作曲された時代に合ったスタイルや楽器で演奏するという姿勢を表しています。 なので、「バロック」だけでなく、 ・ルネサンス時代の作品を演奏することもあれば、 ・古典派(ハイドンやモーツァルト)や、 ・最近ではロマン派(ベートーヴェンやシューベルトなど)も扱うことがあるんです。 今回は、ベートーヴェンのドラマティックな音楽に、古楽器ならではの音色で取り組むという、 とてもやりがいのあるプロジェクトでした🎶 🏰 美しいオペラハウスでの7公演 会場は、美しい敷地に建てられたオペラハウス。 毎回、自然と一体になったような環境で演奏できたことが、とても印象に残っています。 演奏会は全7公演。 素晴らしい奏者のみなさんとご一緒できて、学びの多い充実した時間でした。 大きなオーケストラの一部となる感覚は、特別ですね🎶 🎉 そして、次は…! ひと段落…と思いきや! ここからまた、ワクワクなイベントやプロジェクトが続々と始まります✨ 📣 まずは、7月30日に特別なお知らせを公開予定!…

通奏低音は伴奏じゃない⁉️

通奏低音は伴奏じゃない⁉️ バロック音楽では、上で歌う旋律ではなく、下で鳴っている“低音”こそが音楽の本体🎶 「通奏低音=伴奏パート」と思われがちですが、実は、それは大きな誤解。 通奏低音は、ただの和音のサポートではなく、和声・リズム・推進力のエンジン💨チェンバロやオルガン奏者は、即興で音楽を創造しています。 ときには、上の旋律が“添え物”のように感じられることさえある。私自身、バロック作品を演奏していて「音楽が下から湧き上がってくる」そんな瞬間を何度も経験しています。 通奏低音を聴くと、バロック音楽の“呼吸”が見えてくる。 あなたの中の「音楽の主役」、ちょっと入れ替えてみませんか? 高橋未希のライン公式アカウントへぜひお友達登録してください!イベントや講座、そしてライブ配信などの情報がお受け取りになれます。 現在、🎁LINE登録特典🎁\あなたはどのくらい古楽に向いている?/【見分け方チェックリスト】プレゼント中!

テレマンのカノンをご一緒しませんか?

昨年からのロックダウンの影響で、イギリスの大学ではほとんどの授業がオンライン化されました。必修科目ではないバロック・ヴァイオリンのクラスもその煽りを受け、グループレッスンなのにオンラインクラスという多少無茶な状況となり、どうしたものかと頭を捻った結果作ったのが以下のヴィデオです。 G.P.テレマンのカノン風ソナタ第1番(TWV40:118)は、私も普段からよく生徒さんと一緒に弾いていました。これを私が1人で録音し、生徒さんには各自自宅でこのヴィデオの中の私と一緒に弾いてもらおうという試みです。せっかく録音したので、こちらでシェアすることにしました。バロックピッチであるA=415Hzの録音となっていますので、その点ご注意下さい。 ボーイングを私が入れた楽譜は以下のリンクからダウンロードできます。 慣れていない方には多少読みにくいかもしれませんので、楽譜を読む上での注意点を以下に箇条書きにします。もちろん、自前の楽譜を持っていらっしゃる方はそちらをお使いいただいても全く問題ありません。 ・ト音記号の右上についているXは、シャープ記号です。よって、これは調号がF#のト長調ということです。曲中にもこのXサインがシャープの代わりに使われています。 ・2小節目の上に、アルファベットのSの右上と左下に・のついたサインがあります。これはセカンドパート奏者(この場合は演奏される皆さん)への、カノンのファーストパート奏者がこの小節でたどり着いたところで頭から弾き始めてください、というサインです。つまり、ヴィデオの中の私が2小説目の2拍めを弾くタイミングと、皆さんが1番初めのレの音を弾くタイミングが一緒、ということになります。要するに、このカノンは1小節後からセカンドパートがファーストをおいかける形になります。続く2、3楽章も同じ要領で初めてください。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

えびす塾オンライン・チャリティーコンサートへのお誘い

人生は何があるかわからないもので、大学生の頃には結婚する気も子供を持つ気もなかった私が、なぜか今はイギリスで、2児の母をしています。 たまたま妊娠中にお互い診察時間が隣り合わせだったため知り合った日本人女性のご家族と交流が始まり、そこからバーミンガムにも日本人コミュニティと子供向けの日本語教育の場が存在することを知りました。 ロンドンに日本人コミュニティがあることは前から知っていましたが、バーミンガム周辺にも日本人の方々が意外と多く住んでいらっしゃいます。そんな中、子供達に日本語と日本文化を学んでもらいたいというお父さんお母さんたちが集まり、協力して運営されているのが、幼児向けの「きりんさん会」、日本だと幼稚園の年齢の子供達が集まる「あさひくん」、そして学齢に達した子供達の日本語教育を毎週土曜日に行う「えびす塾」です。日本語の児童書を借りることのできる「きりんさん文庫」も併設されていて、たくさんの絵本を借りることができるのも魅力です。 私の子供達も、「きりんさん会」からお世話になり、上の子は去年から1年生として「えびす塾」に入学しました。 「えびす塾」では、できるだけ多くの皆さんに参加してもらうことと、親同士、子供同士の交流を促進するために授業料は低く設定され、季節ごとに「夏祭り」「運動会」や「新年会」などの行事を行い、その時のバザーや日本食の売上などから運営費を補填してきました。また、ダービシャーやロンドンにある他の補修校と違って、日本の教科書に沿った指導をしつつも、子供達のペースに合わせた少人数制の授業をしているのが特色です。 しかし、コロナウィルスの影響で昨年からこれらの季節行事やバザーを行うこともできず、昨年度からオンライン授業が続いています。このままでは今後の活動費の見通しが立たずに、えびす塾の存続が難しくなるかも知れません。そこで、えびす塾の財政状況を改善し、バーミンガム周辺に住む日本人家族や子供達にとって大切な教育と交流の場を存続させるために、微力ながらチャリティーコンサートを企画いたしました。ロックダウンが続く中での自宅録音となっていることをご了承ください。主人と子供達にも協力してもらい、聴きやすく、子供達にも親しんでもらえるプログラムを考えてみましたので、覗いてみていただけたら幸いです。オンラインコンサートの収入は、手数料を除いた全額をえびす塾へ寄付させていただきます。コンサートページへは、以下のリンクをお使いください、宜しくお願いいたします。    ~ピリオド楽器で楽しむ古典派のデュエット~ ヴァイオリン:髙橋未希 ヴィオラ:アダム・レーマー プログラム W.A.モーツァルト: ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏 ト長調 ケッヘル423 アレグロ アダージョ アレグロ 子供達と、かえるの歌 F.A.ホーフマイスター: ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏 作品19 第5番 アダージョ アレグロ W.A.モーツァルト:イヴォンヌ・モルガン編曲によるヴァイオリンとヴィオラのためのアリア、魔笛より

初心にかえる

初心にかえるー楽器の持ち方 先日、イギリスのベネデッティ財団主催による、音楽教師のためのオンラインミニ講習会に参加しました。時間のあるこの時期に、自分の指導の仕方について見直してみようと思ったのがきっかけです。ロックダウンのため娘のヴァイオリン指導も結局は私がやっているため、その面でも大変勉強になる講習会になりました。(普段は高校、大学生レベルの生徒さんのことが多いので) もちろんこれはモダン楽器奏者による講習なので、具体的な技術は古楽器と違う面も多いのですが、人に教える際には共通項がたくさんあります。 第一回目のテーマは『セットアップ』について。要するに、初心者、または悪い癖のついてしまった生徒さんの楽器や弓の持ち方などをどうやってより良い方向へ導くのか、ということですね。 このトピック、実は初心者に限らずとても重要です。子供達の場合は体の成長に合わせてたえず楽器の持ち方や基本の運弓を見直す必要がありますし、大人になって体の成長が止まっても、妊娠出産(実際に経験した方はご存知と思いますが、立ち方も変われば関節の柔らかさも変わってしまうという大イベント)はもちろん、加齢による身体能力の変化や関節の動きやすさ、さらには習慣による体の変化など、ほんの少しの違いでも、年月を経て大きな違いになって出てくることはザラです。 ほとんどの場合、バロック・ヴァイオリン奏者は、モダン・ヴァイオリン/ヴィオラから転向してきます。その際に、楽器の持ち方の『リセット』を経験していらっしゃるので、感覚的になぜそれが重要なのか知っている方も多いはずです。先生や地域によって差があるとは思いますが、子供の時と違って自分で意識的にセットアップを見直すことになるため、バロック楽器奏者は自分の体と楽器との対話をより多く行ないます。そして、多くの場合、一度『リセット』したら終わり、というものではなく、自分と楽器に合わせて『リセットし続ける』こともわりと普通に捉えています。 ミニ講習会では、ではその『リセット』をどのように生徒に促していくのか、具体的なテクニックについてお話を聞きました。細かいことは省きますが、 楽器を下ろして持ち直す動作をできるだけ多くすること が重要だそうです。特に子供達の場合、楽器や弓を強く握りしめてしまうことがよくありますよね。それに、習慣というのはなかなか頑固で、せっかくリセットした楽器の持ち方も、弾いているうちに、リセット前の持ち方に戻ってしまうことがほとんどです。このような時に、細かく説明して指導することも場合によっては必要かもしれませんが、多くの場合、単純に楽器を近くのテーブルなどに一度置いて、また持ち直す『ミニ・リセット』が効果的だというのです。 そういえば、私も本番中に体の一部に力が入ってしまった時、一瞬だけ力を抜いてリセットすることがあります。弾いている間に楽器を下ろすことはできないので、感覚だけで処理する『マイクロ・リセット』とでも言いましょうか。緊張状態にあるとき、具体的に腕のどの筋肉に力が入ってしまっているのかわかる人は少ないでしょう。例えピンポイントで分かったとしても、ではその筋肉だけをリラックスさせられる人は・・・ええと、いるのかもしれませんが、殆どの人には無理かと思います。そもそも、演奏中にそんなことを考えている暇はありません。『この状態はよくない』と思った時に、パッと一瞬力を抜いてリセットする方が遥かに楽です。 このテクニックには応用編があって、特定の部位の力を抜くことが難しい時、一度全身に力を入れてから弛緩させると一緒にリラックスできます。演奏中には難しいですが、体に力の入りやすい方は、練習中に是非試してみてください。(これはカナダに留学中にパフォーマンスクラスで習いました。) 話がそれましたが、講習会ではさらに、習い始めの時期に焦らないことも強調されていました。子供達の場合、イギリスではグループレッスンになることが多いのですが、半年間くらい開放弦ばかり弾くことになっても良いと言うのです。確かに、ヴァイオリンは音をきれいに出すのが難しい楽器ですし、左手も重力に逆らった上に捻って使うので、慣れるまでには時間がかかります。開放弦ばかり弾いて左手は何もしない訳ではなく、いろいろなエクササイズを通して左手の使い方も学びながら、時間をかけてセットアップをきちんとした方が、その後の上達が早いということですね。娘のヴァイオリン教本に、何故か左手のピッツィカートやハーモニクスなどの練習があり不思議に思っていましたが、これらもどうやら左手のセットアップのためにある練習だということがこの講習会で分かりました。 スズキなどで、子供達が何巻目のどの曲まで進んだかを競い合うことがありますが、あまりそういうことにこだわると、基本のテクニックが確立されないまま曲だけ弾けるようになっていき、レベルが上がってきたところでつまづいてしまう可能性が高くなります。学校側のカリキュラムの都合や生徒さんの親の要求に板挟みになる先生方も多く、これはなかなかに改善の難しい領域ではありますが・・・。ベネデッティ財団では、セットアップの重要さについても『布教』を試みているようですので、今後、教育現場でのこの面での理解が深まっていくことを期待します。 どんな分野でもそうですが、基本は大切であるということを学び直すきっかけとなった講習会でした。

弦の張力について

 最近、弦の鳴りが悪い気がしたので、久しぶりに弦の張力について見直してみることにしたのが2週間前。2日目には、パンドラの箱を開けてしまったことに気がついたのでした・・・。  そもそも、バロック時代に使用されていた弦の太さについてのリサーチには諸説があり、全部をトライしようとすると金額的にも時間的にも大変なことになります。ヨーロッパの一部では、かなり太めのE線を使うかたが結構いらっしゃいますが、私の楽器で試してみると合わなかったので(そういえば5年くらい前にも同じようなことを試したと、その後思い出しました。)E線のゲージは据え置き、2週間かけて残りの弦をどうするか今調整中です。  ヨーロッパでは場所によってあまり普及していないようですが、イギリスでは公式にイコール・テンションを取り入れているアンサンブルがいくつかあり、それに少し近いイコール・フィール・テンションをもとに弦のゲージを決めていらっしゃる奏者がかなりいます。  聞いただけではなんのことやら分かりませんが、要するに弦の張力を各弦で均等にする、というのがイコール・テンションになります。ロンドン在住のオリバー・ウェッバーが以下のサイトで説明しています。  ちなみに、モダン・ヴァイオリンの弦の張力はE線が最も高く、低い弦になるにつれて低く設定されています。お恥ずかしい話ですが、モダンヴァイオリンを専攻していた学生時代、楽器店で弦を購入する際に、弦にゲージが存在することは見ていたものの、実際にゲージを調節した経験はありませんでした。先生方や友人たちとも、弦のゲージについて議論する機会がなかったということは、当時はあまり重要視されていない要素だったということでしょう。現在でも、モダン楽器の弦のゲージについて意識していらっしゃる方はそう多く無いかと思います。  さて、肝心のイコール・テンションですが、ダウランドやレオポルド・モーツァルト(『ヴァイオリン奏法』の第1節の4に記述があります。)が提唱する理論によると、隣り合った弦(例えばA線とE線)の低い方の弦は、高い方の弦の1.5倍の太さであるべき、ということだそうです。つまり、E線のゲージが58なら、A線は87、D線は130、G線は195になるということですね。  ゲージ195のG線!!!  裸ガットにすると、ものすごく太いです。そもそも、弦が太すぎてテールピースの穴に入らない、という事態まで起こります。流石にちょっと弾きにくい、というのが私の感想です。私の同僚の多くも、さすがにここまで太いG線を使う方は少数派です。G線は巻線を使うにしても、D線だって130。なかなかの太さです。対応方法は2つ。  まず当たり前ですが、E線を細くしていけば全体の数値が下がります。E線のゲージを54にすれば、G線は180くらいですみます。・・・それでも180です。そして、ゲージ54のE線は、・・・当然、よく切れます。  そこで、1.5倍という過激な掛け算ではなく、少し緩めに行こう、なぜなら太めの弦は張り替えてからの伸び率が少し少ないし、指で押さえたときのフィーリングが違う。だから、掛け算の数値は1.43で良い!というのが一説。これについては、私も科学的、歴史的実証があるのか謎だと思っていますが、使いやすさからこの説を採用している方がいらっしゃいます。私も一時期使っていました。  上記の方法をイコール・フィールのシステムとして認めるかどうかはともかく、イコール・フィールの目指すところはそのまま、弦を押さえたときの感覚を各弦で均一にすることです。それをもう少し科学的にしたのが、イタリアのガット弦メーカーであるアクィラ社の提唱するイコールフィール。こちらは、実際にバロック時代の証言をもとに、弦の伸び率を考慮して実験を重ねた結果のようです。リンクはこちら。  ちなみに、アクィラ社のイコール・フィールは、“ノーマル“セットでゲージが64−91−124−180とあります。  一方で、ドミトリー・バディアロフは、イコール・テンションもイコール・フィールも、共に、歴史的、科学的に正しく無いのではないか、と言っているようです。弦の太さは確かに重要ですが、イコール・テンションの簡単な1.5倍や、イコール・フィールのシステムは、駒のないリュート向けであり、ヴァイオリンの駒やテールピースのカーブを考慮していない・・・。確かに、それはそうですよね。ページに数式が入って少しややこしいですが、彼の意見はこちら。  こうなってくると、自分の楽器の駒やテールピースの角度に合わせて数式を解く世界になってしまいます。とりあえず、まず自分の楽器で正確な数値を測るところからして、私には無理です。ということで、バディアロフ氏のアドバイスは、 “In order to balance the instrument in both the longitudinal tension and the downward pressure, the middle strings must be thinner and the outer…

楽器と奏法、どちらから入る?

 以前のブログで、バロックヴァイオリンとモダンヴァイオリンの違いについて書きましたが、楽器がバロックヴァイオリンであれば自然にバロックの奏法になるわけではありません。いくら楽器が限りなくバロック時代のものに近くとも、奏者がモダンヴァイオリンの技術を使って演奏すると、モダン楽器を演奏しているのと結果はあまりかわりません。奏者の技術が高ければ高いほど、楽器の「欠点」を技術力で補ってしまい、「少し弾きにくいヴァイオリンで普段通りの演奏をする」形になります。このような例は古楽演奏習慣の普及に伴って最近減りましたが、私が学生の頃にはモダン演奏とどこが違うのか全くわからない、「バロック楽器を使用した」コレッリのヴァイオリンソナタのレコーディングに行き当たったことがあります。  逆をいえば、モダン楽器を使用していても、コンセプトさえおさえていれば、モダン楽器でバロックのレパートリーを当時のスタイルに基づいて演奏することは可能です。私見ですが、アンサンブル単位や、プログラムの都合上一時的にスタイルを学ぶ場合、バロック楽器に触れることも大切ではありますが、本番では使い慣れた楽器を使った方が良いと考えます。ほとんどのヴァイオリニストは幼少期から楽器に触れている、いわばモダン楽器のエキスパートなわけで、その技術力を応用する方が、いきなり見知らぬ(そして大抵の場合クオリティの低い)バロック楽器を使うよりも話が早いと言うわけです。容れ物より中身、ということですね。  また、予算などの関係で中間をとって、モダン楽器はそのままで、弓だけバロック弓に持ち替えて演奏する場合も見かけます。確かにバロック奏法の1番の違いは弓の扱い方だと思うので、効率の良い方法ではあるかもしれませんが、先に弓だけ替えて後からバロックヴァイオリンを購入するプランはあまりお勧めできません。何故なら、モダン楽器に合う弓と、バロックヴァイオリンに合う弓は違うので、弓を二度買いすることになるからです!  その昔、ヴァンクーヴァー古楽音楽祭で夏季講習を受けた際、指導にあたられていた先生曰く、楽器と弓のコンビネーションはソフト+ハードが基本。モダンヴァイオリンは「ハード」、モダン弓は「ソフト」、バロックヴァイオリンは「ソフト」、バロック弓は「ハード」と考えると、モダン楽器にバロック弓のコンビネーションはハード+ハードになってしまうのであまりお勧めしない、とのこと。実際にどちらの楽器にも触れたことのある方には、イメージしやすい例えだと思います。  ここまで読むと、「では本当に古楽演奏習慣を学ぶには、良い楽器と弓を買い直さなくてはならない。ハードルが高すぎる。」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。ですが、ヴァイオリン奏者がある日、チェロを学びたいと思った場合、ヴァイオリンを使ってチェロの練習はできませんよね。ヴァイオリンはヴァイオリンでも、モダンとバロックは「違う楽器」と捉えてしまえば、そんなにハードルの高いことではないかと思います。先程の例ならば、チェロに興味を持って「学びたい」と思ったら、まず楽器を借りてみることが可能です。私も、大学時代に古楽をやってみたいと思った時は、まず初めに人伝に楽器を借りてトライし、その後は大学から1年間楽器を借りて研鑽を積みました。やはり、バロックヴァイオリンに触れることで学べることはたくさんあるので、奏法について学ぶ最中に良い楽器を借りて弾くことは、貴重な経験になります。  とはいえ、まず古楽に親しんでみたいと思われる方、またはモダン楽器の奏法でバロックのレパートリーを弾くことに納得がいかない、誠実なミュージシャンの方に1番お伝えしたいのは、楽器を揃えることよりも、ソフト面にあたる奏法の方が遥かに重要だということです。中には、あえてモダン楽器の特性を活かしたまま古楽演奏習慣をうまく取り入れて演奏活動に励んでいらっしゃる方も見かけます。もちろん、奏法を学ぶうちにモダン楽器では物足りなくなってバロックヴァイオリンを購入する、ということも十分ありえますし、歓迎したいところです。この経路を辿れば、バロック弓の二度買いも防げますし、そうなる頃には楽器を買うだけのコミットメントを躊躇うことはないでしょう。

バロックとモダンヴァイオリンの違い

ウェブサイトのリニューアルにあたり、削除されてしまっていたバロックとモダンバイオリンの違いについて、大分前に書いたものになりますが、少し手を加えてここに掲載します。 見た目からいくと、バロック奏者は基本的に顎あてを使いません(使う人もいますが、遠慮がちに小さめのものだったりします)。弦は、E線からG線までガット弦の場合もあれいば、E線とA線はオープンガット弦(外側に銀線を巻いていないガット弦です)で、G線はモダンでも使われている、外側を銀線でカバーしたガット弦、D線はどちらもありですが、銀線を数本巻き込んだオープンガット弦を使う人もいます。ガット弦とは、基本羊の腸を撚って作ったもので、だいたい黄色っぽい外見になります。 ずっと文章だとわかりにくいので箇条書きにします。バロック楽器はモダンに比べると、 1、駒が低めで、カーブも緩やか。 2、ネックが楽器の胴体に対して水平に取り付けられている。(モダンは弦の張力を上げるためちょっと斜めになっています)これに伴って、指板が弦の上昇に合わせるように取り付けられています。 3、魂柱(楽器の中に立っている小さな柱のようなもの。実は弦の張力を楽器の中から支えている)が少し細い。 4、バス・バーと呼ばれる、楽器の表板の裏側についている棒状のもの(上手く説明できませんが・・・)が細く、短い。 5、これは楽器の注文主によって違いますが、指板が短い。 という違いがあります。とはいえ、楽器の基本構造は、400年来全く変わっていません。 相方の弓ですが、これは時代によっていろいろな型があり、人にもよりますが、プロは基本的に3種類くらい取り揃えています。(勿論、もっと大量に持っている人はたくさんいますが) 時代の早いものから、 1、短めの早期バロック用 2、ちょっと長めで、後期バロックソナタ用 3、古典派時代に使われたもの の3つ。1、2、は現代の弓とは逆に、カーブはアーチ型、3は初期では殆どまっすぐのものもありますが、S字型になったりと、モダンに近い形になってきます。 これらの違いが変えるのは、出てくる音量と音質です。(楽器5の指板の長さは、単に昔はあまり高いポジションを使わなかったからですが) バロック楽器は、 1、音量が小さめ 2、高めの倍音が多く聴こえるせいか、線の細い音がする 3、実は、モダン楽器より雑音が多い(バロッックの方が柔らかい音がすると思う人がけっこう多いですが、実はモダン楽器は極力音が滑らかに、そして均一に出るように改造されていて、雑音はとても少ないです。チェンバロの音を想像してみてください。ピアノの方が滑らかですよね。) 3は意外に思うかも知れませんが、バロック時代は一つ一つの音の表情がとても豊かである事が美しい音楽の条件だったようで、均一な音を作る事は当時の美意識に反していたのだと思います。調律の仕方も違った結果、それぞれの調声に違った性格があるのも常識でした。ただ、フレージングが”うた”や“かたり”に近く親しみやすいので、結果柔らかく聴こえるのかも知れません。 以上、ちょっと長くなってしまいましたが、概要です。

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